AIをはじめ活躍の場が広がるAMDの半導体
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(以下、AMD)は、半導体の設計や開発を手掛ける企業です。1969年にシリコンバレーの新興企業として数十人の従業員からスタートしました。当初はインテルのセカンドソース(同じ仕様の製品)でプロセッサなどを製造するメーカーでしたが、同時に独自設計の処理装置も手掛け、飛躍するきっかけとなりました。
その後、インテルとは、セカンドソース契約や特許侵害で訴訟合戦が起こりましたが、両者は2009年に和解しています。この間にもAMDはパソコンやノートパソコンだけではなく、サーバー向けのCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理装置)、APU(CPUとGPUの機能を一つのチップに集積した統合プロセッサ)などの製品を手掛け、業容を拡大していきました。
同時に、AMDの活躍の場はさまざまな分野に広がっています。現在では、AI(人工知能)からヘルスケア、航空宇宙、自動車、ゲーム、エンターテインメントなどの分野でAMDの製品が使われています。また、現在はデバイスやソーシャルネットワークなど、さまざまなプラットフォームを介して人々やモノの相互のつながりが急激に強まった「ハイパーコネクティビティ」の時代と言われますが、これらのデバイスにはAMD製品が大きな役割を担っています。
AMDは、半導体の製造をグローバルファウンドリーズ社やTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)などのファウンドリに委託しています。また、2022年2月には、FPGA(製造後に外部から設計情報を送り込んで任意の論理回路を構成できる集積回路)大手のザイリンクスを買収しました。
AI半導体の急拡大でデータセンター向け売上高は80%増
4月30日に発表した2024年第1四半期(1〜3月期)決算は、売上高が前年同期比2%増の54億7,300万ドルでした。米国を中心に広がるAIブームにより、AI向け半導体が順調に拡大しました。最終損益は前年同期が1億3,900万ドルの赤字だったのに対して、1億2,300万ドルの黒字となりました。
事業別の売上高ではデータセンター向けが前年同期比80%増の23億ドルと業績をけん引したのに対して、ゲーム向けは同48%減の9億2,200万ドルと不振でした。4〜6月期の売上高見通しは、前年同期比6%増の57億ドル前後としています。
AMDは、半導体製造大手のエヌビディアと比較されるケースが多いのですが、同社の2024年12月期通期のAI向け半導体の売上高予想が約40億ドルに対し、エヌビディアは2023年11月〜2024年1月のデータセンター部門の売上高が184億ドルと、AI向けでは大きな差がついています。ただ、AI分野は大きなブームとなっており、AI向け半導体需要が急激に拡大していることから、AMDにとっても大きなビジネスチャンスとなっています。
半導体規制に不安はあるがAIブームに期待大
しかし、懸念材料がないわけではありません。米国政府が進めている対中輸出規制の強化では、AI半導体などが対象となっています。さらに、英紙フィナンシャル・タイムズは、中国が政府調達の面で米国製の半導体を段階的に排除するための指針を導入したい考えだと報じています。
米国と中国の間で繰り広げられている半導体規制は、AMDなど米国の半導体メーカーに大きな打撃を与える可能性を秘めています。こうした未知数の懸念材料はあるものの、AIブームの到来は、新たな産業革命と例えられるほどで、AMDにとっては今後も良好な環境が続くと思われます。
記事作成日:2024年5月27日