米国株式市場にとっての年内の大きなイベントといえば、大統領選挙と金融政策の行方でしょう。NYダウやナスダック総合指数、S&P500といった主要株価指数は9月初旬から上昇基調にありますが、大統領選挙の結果と今後の金融政策が波乱要因になる可能性も否定できません。そこで今回は、大統領選挙と金融政策に焦点を当ててみました。
まず、大統領選挙ですが、投票日は11月5日です。民主党の大統領候補者はバイデン大統領の後継候補のカマラ・ハリス副大統領、共和党はドナルド・トランプ前大統領ですが、両者の選挙戦は激戦が続いています。大統領選で両者が打ち出している経済面で影響の大きい政策を民主・共和両党の政策綱領から見ていきましょう。
ハリス氏なら不動産やクリーンエネルギー関連に注目
まずは民主党ですが、ハリス氏の政策の根幹は低所得者層の底上げと中間層の活性化にあります。そのため、最低賃金を時給15ドルに引き上げる方針を打ち出しています。さらに、前トランプ政権が導入し2025年に期限を迎える個人所得税の減税など、いわゆるトランプ減税については、年収40万ドル未満の世帯について継続するとしています。
ただ、富裕層には最低25%の所得税を課し、キャピタルゲイン課税の税率を現在の20%から28%へ引き上げることを提示、法人税率も21%から28%に引き上げるとしています。合わせて、子ども支援金の拡充や住宅購入に対する税控除なども挙げています。
さらに、エネルギー政策では、太陽光発電、風力発電、地熱発電プロジェクトの拡大など、クリーンエネルギーの推進を掲げ、一方で石油・ガス生産に対しては、不当な補助金を廃止すると主張しています。
こうした点を踏まえると、低所得者・中間層については、個人消費の活性化が期待できる半面、株式投資の主体である富裕層には厳しい政策となりそうです。セクターでは、不動産・住宅産業とクリーンエネルギー関連には追い風が吹きそうですが、石油・ガス関連には向かい風となる可能性があります。
トランプ氏なら製造業や石油・ガス関連に注目
共和党はインフレからの脱却と物価の引き下げを押し出しています。トランプ減税については、恒久化することを主張しており、さらに残業代や社会保障給付金の課税廃止、自動車ローンの利息や州・地方税の税控除を提案しています。また、トランプ氏は大統領時に実施した法人税率の35%から21%への引き下げを、さらに15%まで引き下げるとしています。ただ、引き下げは国内生産を行っている一部の製造業に限定する方針です。
「アメリカ・ファースト」を打ち出すトランプ氏は、中国からの輸入品には一律60%、その他の国からの輸入品には最大で一律20%の追加関税を課すことも主張しています。エネルギー政策では、石油・ガス生産の推進を打ち出しており、特に国内生産への優遇を進める方針です。
こうした点を踏まえると、インフレからの脱却と物価の引き下げを打ち出しながらも、輸入課税の強化によって輸入品への価格転嫁が進めば、物価の押し上げ要因になり、個人消費の減速要因となり兼ねない可能性が指摘されています。セクターでは、国内の製造業と石油・ガス関連には追い風になりそうです。
トランプ氏当選で株安?
懸念されるのは、両者の政策とも、減税やあるいは特定のセクターに対する優遇政策が打ち出されていることで、財政赤字が拡大する可能性が大きいことです。特に、トランプ氏の政策では、財政赤字の拡大を避けることはできそうにありません。
株式市場への影響という点で両者の政策を比較すると、総じて、ハリス氏は緩やかな押し上げ要因、トランプ氏は大幅な押し下げ要因と見ることができそうです。ただ、10月に入ってからの株式市場では株高が続いており、これを「トランプ・トレード」の再来とする声も上がっています。
両者の政策による財政赤字の拡大はインフレ要因となり、長期金利の上昇につながります。そこで重要となってくるのが、今後の金融政策でしょう。
米国は利下げと景気動向に注目
米連邦準備理事会(FRB)は9月18日に0.5%の利下げを実施しました。基本的に、利下げは株式市場にとってプラス要因、利上げはマイナス要因となります。ただ、現在の環境が複雑なのは、金融政策の行方に加えて、米国経済がソフトランディング(軟着陸)できるかどうかが関心事となっている点です。
10月に発表された米国雇用統計では、強い雇用状況を受けて利下げペースのスローダウンが警戒されましたが、株式市場はソフトランディング期待から大きく上昇しました。これまでは強い経済指標が出ると「利下げが遠のく」との見方から株式市場の下落に繋がる傾向がありました。今後も、利下げとソフトランディングを巡って、様々な思惑から株式市場は大きく変動する可能性があります。
11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は大統領選投票日の翌日11月6~7日となっているだけに、非常に難しい判断が迫られそうです。いずれにしても、米国では利下げの実施が継続される可能性が高いと考えられます。付け加えると、トランプ氏はFRBに積極的な利下げを迫っており、さらにドル安政策を進めようとしていることも、金融政策の波乱要因の一つでしょう。
日本は米国と真逆の金融政策
日本の金融政策にも触れておきます。日銀(日本銀行)は米国景気の行方に非常に強い関心を持っています。米国が利下げ、日本が利上げという金融政策が真逆の環境となっているのは、主に日本の物価高に為替要因による輸入物価の動向が大きく影響しているためです。
米国の利下げ、日本の利上げによる円高ドル安は輸入物価の抑制となるため、米国の景気動向と金融政策が、日銀の金融政策に大きく影響します。日銀の次回の金融政策決定会合は12月のため、米国の動向を見ながら、利上げの実施について判断を行うことになりそうです。
最後に、株式市場は不透明要因を嫌います。特に、大きなイベントの前は株式市場が乱高下することもめずらしくありません。ただ、イベントが無事に通過し、不透明要因が払しょくされると、それまでとは異なる動きになることもあります。ですので、一時的な株価の値動きに右往左往するのではなく、将来的な潮流を意識しておくことが重要です。
記事作成日:2024年10月28日