世界経済に影響を与える「地政学リスク」とは?
そもそも地政学とは?
最近、「地政学リスク」という言葉をよく耳にします。この地政学リスクは、さまざまな投資を行う場合に、とても重要なリスク要因の一つです。そこで、今回は「地政学リスク」について取り上げてみたいと思います。
そもそも、「地政学」とはどのようなものでしょうか?
地政学は、土地や自然地理的な環境と民族や国家を結びつけて考える学問で、これをドイツの軍人が、ヒトラーの時代にドイツの領土拡大政策の正当化に利用しました。このため、「地政学」という言葉は科学的用語としては不適当との指摘もあります。
むしろ、体系的に確立された学問というよりは、世界の情勢を理解するための視点やアプローチのようなもので、国家間のパワーバランス、国家の体制の違い、国土や領土・領空・領海問題、あるいは宗教・思想や同盟関係などに基づいた世界情勢の分析だと考えればいいでしょう。
地政学リスクの始まり
「地政学リスク」という言葉はかなり以前から使われていましたが、2001年9月の米国の同時多発テロ発生で、翌2002年9月に当時のFRB(連邦準備理事会)のアラン・グリーンスパン議長が「経済が不調なのは、地政学リスクのせいだ」と発言したことで、経済や投資で頻繁に使われるようになりました。
こうして、「地政学リスク」とは、ある特定の地域での政治・軍事・社会的な緊張の高まりが、その地域や世界全体の経済などの先行きを不透明にすることを示す言葉となりました。
地政学リスクは、世界全体の経済などに影響を与えますので、リスクが現実化すると石油や資源価格の上昇や、世界のサプライチェーンが混乱に陥ることで、世界経済に悪影響を及ぼしてしまいます。
「ガザ地区」から見る地政学リスク
現在、地政学リスクがもっとも高いと言われるのが中東です。中東には多民族が住んでいるうえに、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の教徒がいます。中東で地中海の一番東の沿岸にある地域は「パレスチナ」と呼ばれ、このパレスチナにある「エルサレム」には、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のそれぞれの聖地があるのです。
長い間迫害を受けてきたユダヤ人が、1948年このパレスチナにユダヤ人国家の「イスラエル」を建国しました。このユダヤ人国家のイスラエルを巡り、領土問題、民族・宗教対立により、特にアラブ人国家との間で中東戦争が起こりました。この間にイスラエルが領土を拡大していったことが、さらに周辺のアラブ諸国の憎しみを募らせ、中東戦争は4回も起こっています。
イスラエルの中には、聖地「エルサレム」を含めた地域で、イスラエルから独立してパレスチナ人の国家の建国を目指す人々がパレスチナ自治区としてヨルダン川西岸とガザ地区に住んでいます。
アラブ諸国との国家間の紛争が終結した以降も、このパレスチナ人の独立建国を目指し、イスラエルに対する武装闘争が行われています。これを「パレスチナ問題」と言います。
2023年10月7日には、ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに対して戦闘を開始しました。これを皮切りに、イスラエルとハマスは全面戦闘に突入しています。
中東での地政学リスクは原油価格の上昇などへ影響を与える可能性が高いこともあって、その動向が注目されています。
この中東だけではなく、世界中にはさまざまな地政学リスクがあり、それが現実化すると、世界経済などに大きな影響を与えます。投資を行ううえでは、地政学リスクの動きにも十分に注意を払う必要があります。
記事作成日:2023年11月7日