株価が比較的高い銘柄は、株式分割を発表することがあります。筆者が証券会社に勤めていた時、担当顧客から突然「株価が急に半分になっている!なにがあったの???」と連絡を受け、調べてみると分割の効力発生日だったことが多々ありました。
株価が半値になったことが衝撃的すぎるためか、別に損したわけではないけれども、分かってもらうのに苦労したこともあります。投資家からすると、事情を知らないと株価の急変にびっくりすることもあるかもしれません。今回、株式分割にはどんなメリット・デメリットがあるのか、解説していきます。
株式分割とは?
名前の通り、株式を分割することです。1株を2株に、または3株、5株、10株に分割することもあります。
例えば1株を2株に分割すると、発行済み株式総数が単純に2倍になります。その会社の株を持っている株主はどうなるのかと言えば、効力発生日まで持っていると保有株数が2倍になります。株価も半分になるので、保有株の評価額は変わりません。
なんのメリットがあるのか?と思われますが、例えば100株(1単元)しかもっていなかった場合、分割によって200株(2単元)になります。1単元売っても、もう1単元残っているので、売買の自由度が上がりますね。株主優待などの株主還元を引き続き享受できるメリットもあります(場合によってはもらえないこともあります)。
株主以外の投資家から見ても、今までは高くて買えなかった銘柄が買いやすくなります。NISA(少額投資非課税制度)の枠を使って買おうとする人もいるでしょう。上場区分によって必要な株主数も変わるため、グロース→スタンダード→プライムとより上の区分をめざしている会社にとっては、株主数を増やすチャンスにもなります。
実質的に配当が増額される場合も
単純に株式分割を行うだけであれば、1対2の分割では株数と同時に配当金も半分になります。ただ、分割割合通りに配当を修正しない場合があり、実質的に配当増額を行うケースもよくあります。
例えば、下の図は川崎汽船<9107>の株式分割です
※川崎汽船の開示書類から抜粋
ここだけ見るとただの分割ですが、読み進めていくと
このように配当予想の修正についても書かれています。川崎汽船の場合は、分割の効力発生日が下期に入ってからなので、修正の対象は期末配当予想です。
従来予想では1株150円でしたが、修正後は100円になっています。1対3の分割なので本来は150円→50円になっているはずですよね。これを実質増額といい、既存株主からしたら、今までは100株で期末配当15,000円をもらえる予定だったものが、分割後は300株保有し、30,000円もらえることになります。
このように、見かけ上は配当金が引き下げられても、実施的に配当金が増えるケースがあります。分割後に売ろうと思った場合は、配当予想もよく考慮して判断するとよさそうですね。
株式分割のデメリットは?
株式を分割しただけなので、これを理由に業績が良くなるわけでもありません。時価総額(企業価値)が分割前・後で変わることはないので、理論上は企業価値に影響はないとの見方が一般的です。
しかし、前述のメリットが大きいため、昨今の株式市場では「株式分割=買い」が先行し、発表翌日に株価が急騰するケースが多数を占めます。小型の銘柄であれば、ストップ高まで買われることも珍しくありません。
そして高値掴みをしてしまった投資家が一斉に売ると、結果的に分割発表前の株価を下回ってしまう恐れもあります。
過去に、株価急騰に合わせて株式分割を短期間に何度も行った銘柄がありましたが、株価はマネーゲームと化し、痛手を負った投資家が続出した・・・なんてこともありました。このため、実態に見合わない株式分割は逆にリスクを増大させるというデメリットも存在します。
ほかにも、実務的には株主数が増えることで会社による管理の手間も増えるといった指摘が見られますが、このことを懸念して株価が下落した話は聞いたことがありません。
意外と多い分割発表
2022年では、人気化した海運株3社(日本郵船<9101>、商船三井<9104>、川崎汽船<9107>)や、任天堂<7974>などが株式分割で話題となりました。マーケット環境によって頻度も変わってくると思われますが、気になっていたあの銘柄も、今後買いやすくなるチャンスが到来するかもしれません。
記事作成日:2022年9月8日
(DZHフィナンシャルリサーチ)