2024年11月5日に控えた米国大統領選挙は、株式市場にとっても大きなイベントです。そこで今回は、大統領選挙の状況と民主・共和両党の大統領候補者の政策の違い、株式市場への影響や注目銘柄について取り上げていきます。
まず、民主党ですが、ジョー・バイデン大統領が7月21日、大統領再選に向けての選挙戦から撤退を表明し、後継候補者として指名されたのは、副大統領のカマラ・ハリス氏でした。一方、共和党は、ドナルド・トランプ前大統領が候補者となっています。
ハリス氏 vs. トランプ氏 政策の違いは?
7月13日、トランプ氏が遊説先で狙撃されるという事件が起き、耳に被弾し血を流しながらも、星条旗を背にして拳を突き上げ「ファイト」と叫ぶトランプ氏の映像が流されると、米国大統領はトランプ氏有利との見方が強まりました。
しかし、世論調査のデータ収集サイト「Real Clear Politics」によると、両者の支持率は拮抗しています。それどころか、8月26日時点の支持率では、ハリス氏が48.3%、トランプ氏が46.6%と、ハリス氏がトランプ氏をわずかながら上回っています。
さて、過去の経験則では、米国の大統領選挙が行われる年の前後は、株式市場が上昇しやすいというアノマリーが有名です。これは、大統領選挙で打ち出される経済対策が市場の材料となるケースが多いためです。
ただ、経済対策では、恩恵を受けるセクター(業種)もあれば、逆風となるセクターもあります。そこで、ハリス氏とトランプ氏の政策をさまざまな報道からまとめてみました。
積極的な住宅政策で恩恵を受ける企業は?
両者の考えが比較的に近いものとしては、住宅政策があります。両者とも積極的な施策を打ち出していますが、ハリス氏が低所得者への支援策としての色合いが強いのに対して、トランプ氏は住宅産業の活性化策としての色合いが強いものとなっています。
米国の不動産業の多くは優遇税制のあるREIT(不動産投資信託)銘柄となっていますが、住宅購入・販売、賃貸に関するWebサイトやモバイルアプリを運営しているジロー・グループ<ZG>などには恩恵があるかもしれません。
対極的な環境問題では関連銘柄に違いも
環境問題では両者の姿勢の違いは鮮明です。ハリス氏は気候変動問題に対して積極的な取り組み姿勢を示している一方で、トランプ氏は「石油を掘って、掘って、掘りまくれ」というスローガンを掲げていることでもわかるように、パリ協定からの離脱を打ち出すなど、環境問題に対しては後ろ向きです。
ハリス氏が大統領になった場合には、環境投資に積極的な姿勢を示していることから、太陽エネルギー機器メーカーのエンフェーズ・エナジー<ENPH>や燃料電池メーカーのプラグ・パワー<PLUG>などが注目されそうです。
一方、トランプ氏ならエクソンモービル<XOM>やシェブロン<CVX>といった原油関連には恩恵がありそうです。
AI関連は引き続き注目
両者の違いの中でも、株式市場に大きな影響がありそうなのが、AI(人工知能)に対する考え方でしょう。AIに対しては、ハリス氏がAI開発等への一段の規制の意向を示しているのに対して、トランプ氏はAI開発や仮想通貨に対する規制緩和を打ち出しています。
AI関連では半導体セクターが中心になります。ハリス氏が規制派、トランプ氏が緩和派という姿勢ですが、対中貿易の点では、トランプ氏は保護貿易主義に近く、半導体関連は逆風となりそうです。それでも、AI化は世界の潮流となりつつあり、エヌビディア<NVDA>やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>などの銘柄は、今後も注目でしょう。
住宅政策関連1銘柄
ジロー・グループ<ZG>
住宅購入・販売、賃貸に関するWebサイトやモバイルアプリを運営しています。8月6日に発表した2024年第2四半期(4-6月)では、売上高と1株当たり利益が市場予想を上回って着地しています。
ハリス候補、トランプ候補ともに住宅関連には積極的な施策を打ち出していることもあり、同社への注目度は高まりそうです。
株価は8月初旬に40ドル割れ直前まで下落したものの、第2四半期の決算発表を好感して、V字回復しています。8月28日現在では、54ドル台で推移しています。
環境問題関連4銘柄
エクソンモービル<XOM>
世界最大規模の石油会社です。石油と天然ガス事業で開発から精製・販売までを手がけ、「エクソン」、「エッソ」、「モービル」などのブランドでグローバル展開しています。
トランプ候補は、石油や天然ガス投資、掘削の拡大方針を表明していることなどから、トランプ関連銘柄として注目されそうです。
株価は5月以降、おおむね110~120ドルでの推移が続いています。8月初旬の全体相場の下落の影響も少なく、8月28日現在では、116ドル台で堅調に推移しています。
シェブロン<CVX>
世界最大規模の石油会社です。石油と天然ガス事業で開発から精製・販売までを手がけています。エクソン・モービル同様、トランプ関連銘柄のひとつです。
8月2日に発表した2024年第2四半期決算(4-6月)では、純利益が市場予想に届かず、加えて、全体相場の下落にも巻き込まれて大きく下落しました。
株価は8月初旬の全体相場の下落や決算発表を失望して、160ドル台から140ドル台前半まで下落しましたが、その後は下げ止まり、8月26日には150ドル台まで戻しています。
エンフェーズ・エナジー<ENPH>
太陽光発電向けマイクロインバーター・システムの設計、開発、製造、販売を行っています。環境問題では、ハリス氏が環境投資に積極的な姿勢を示していることから、ハリス関連銘柄として注目されそうです。
第2四半期決算では、1株当たり利益は市場予想を下回ったものの、粗利益率が市場予想を上回ったことで株価が動意づきました。
株価は2024年以降、おおむね95~130ドルの間で変動しています。8月初旬の全体相場暴落で一時的に96ドル台まで下げた株価も、8月28日現在では、元の水準を上回り123ドル程度になっています。
プラグ・パワー<PLUG>
産業用運搬車両市場向けに燃料電池システムの設計、開発、商業化、製造を手がけています。燃料電池は排ガスを生じず、省エネルギーと二酸化炭素の排出削減につながるため、環境投資に積極的なハリス関連銘柄と位置付けられます。
8月上旬に発表した第2四半期決算では、1株当たり利益が市場予想を下回ったことから株価は下値模索を続けています。
株価は5月に5ドル台目前まで急上昇したものの、その後は下値模索が続き、8月29日現在では、1.91ドルまで下落しました。
AI関連2銘柄
エヌビディア<NVDA>
画像処理用のGPU(画像処理装置)によるディープラーニングがAI開発の起爆剤となり、世界的な需要拡大が続いています。
今年6月には、同社の時価総額がマイクロソフトを抜いて世界トップになったことでも話題になりました。半導体およびAI関連の指標的な銘柄として世界中の投資家が注目しています。
半導体関連株はトランプ氏は規制緩和と対中規制、ハリス氏はどちらも規制ですがトランプ氏ほど保護貿易主義ではないと思われ、今後の状況により影響度合いは変わりそうです。
株価は8月初旬の全体相場下落に連れ安し、90ドル割れ直前まで下落しましたが、その後は順調に回復し、8月26日高値131.26ドルまで上昇。その後の決算発表受け8月29日安値116.71ドルまで売られました
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>
半導体の設計や開発を手がける企業です。パソコンやノート・パソコンだけではなく、サーバー向のCPUやGPU(画像処理装置)、APU(CPUとGPUの機能を一つのチップに集積した統合プロセッサ)などの製品を手がけ、業容を拡大しています。
AMDもエヌビディア同様に、トランプ氏ハリス氏共に今後の状況により影響度合いは変わりそうです。
株価は8月5日安値121.83ドルから8月20日高値162.04ドルへ上昇、その後は8月29日安値144.47ドルまで売られました。
記事作成日:2024年8月29日