日銀は利上げ姿勢
デフレが続いた日本では、これまで政策金利が長期間低水準で据え置かれていました。とりわけ、2016年2月には日銀(日本銀行)がマイナス金利政策を導入し、「マイナス0.1%」が政策金利となっていました。
しかし、今年3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除が決定され、政策金利は0~0.1%程度に引き上げられました。実に17年ぶりの利上げとなりました。物価の上昇に加えて、賃上げ率が大幅に引き上げられる見通しとなったことが利上げに踏み切った背景と考えられます。
さらに、日銀では7月31日に政策金利を0.25%程度に引き上げる追加の利上げを決定しました。先行きの物価上振リスクが要因として挙げられましたが、急速に進行する為替相場での円安進行に対応したものとも言えそうです。
日銀の植田総裁は、現在の実質金利が極めて低い水準にある中、経済物価の見通しが想定通りに実現していけば、それに応じて、さらなる金利の引き上げもありうるという考えを示しています。実際、市場の見方としては年内、あるいは来年の早い段階で追加利上げが行われると見ています。
一般的に金利上昇は株式市場にマイナス
一般的に利上げは株式市場にとってネガティブなものとなります。利上げによる借り入れコストの上昇で企業の資金調達が手控えられ、景気や企業活動が抑制されることに繋がるためです。
確かに、現在の金利水準は極めて低いため、利上げをしても景気に大きなマイナスの影響を与えることはないかもしれませんが、現在は他の主要国が総じて利下げを行っている状況です。
これにより、米国など海外との金利差縮小によって、為替相場での円高進行が進む可能性があります。その際、輸出企業が中心となっている日本株にとっては、マイナスの影響が強まる公算は大きいと考えられるでしょう。
利上げと円高がメリットになる業種
株式市場全体にとってはマイナスとなる利上げですが、中には利上げがプラスに作用する業種や銘柄もあります。金利上昇メリット業種は銀行・保険などです。
同じ金利上昇でも、調達金利より貸出金利や運用利回りが上昇することで、利ザヤが拡大することになるためです。
また、国内金利の上昇が為替市場での円高に繋がることで、海外から原材料や商品を多く輸入して国内で販売している円高メリット銘柄も、利上げがプラスに寄与することになります。主に利上げメリット銘柄とは、このどちらかのタイプに絞られるでしょう。
三井住友フィナンシャルグループ<8316>
三井住友銀行を中核とし、SMBC日興証券、三井住友カード、SMBCコンシューマーファイナンスなども擁する金融持株会社で、メガバンクの一角を占めます。利ざやの厚い中小企業取引に強みがあります。
円金利上昇による資金利益の影響は、0.1%当たり400億円と試算されるようです。累進的配当(減配しない)政策を掲げ、2025年3月期は4期連続の増配計画です。三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>との比較では海外ウェイトが低く、米国の利下げによるマイナスの影響も乏しいでしょう。
年初から上昇していた株価は、7月5日高値3783.3円でピークを打ち、8月6日には安値2,593.7円まで下落しました。ただ、その後は持ち直し、10月30日時点では3,200円台を回復しています。
りそなホールディングス<8308>
りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらいフィナンシャルグループなどを傘下にもつ持株会社です。東京都や埼玉県を中心とした首都圏、大阪府を主とした関西圏を主要営業基盤としています。
住宅ローンや中小企業向け、資産形成サポートなどリテール業務強化に注力中です。円金利上昇時の影響試算では、政策金利0.5%までの上昇で840億円のプラスとしています。リテール顧客中心で金利感応度は高く、メガバンクとの比較で金融正常化はよりプラスと判断されます。
年初から上昇が続いていた株価は、8月1日高値1160.5円まで上昇しました。その後、日経平均の歴史的な暴落もあり、8月7日安値799円まで売られました。10月30日時点では1,000円台で推移しています。
第一生命ホールディングス<8750>
国内生命保険の大手企業です。第一生命を中核に、第一フロンティア生命、ネオファースト生命が主体の国内生命保険事業のほか、資産運用関連事業、豪州や北米での海外生命保険事業を展開しています。
保険業界の中でも、株式・債券市場の動向に影響を受けやすいと位置付けられています。含み損益の市場感応度として、10年国債利回り10bp(0.1%)の変動で2,500億円の増減、日経平均株価1,000円の変動で900億円の増減と試算されています。
年初から上昇が続いていた株価は、7月11日高値4,806円まで上昇。その後は、9月17日安値3,377円まで下落しましたが、10月30日時点では3,900円前後で推移しています。
オリックス<8591>
リース、融資、投資、生命保険、銀行、資産運用、自動車関連、不動産、環境エネルギー関連など幅広く金融サービス事業を展開しています。海外展開も行っています。
保険、銀行・クレジットのセグメント利益構成比は3分の1程度を占め、長期金利1%の上昇幅で年間の税前利益を100億円程度押し上げる効果とコメントしています。株主優待制度は廃止されましたが、配当金は2011年3月期から2024年3月期までで10倍以上の水準となっています。
今年1月から7月中旬にかけて、株価は右肩上がりの推移が続き7月17日高値3,788円まで上昇。その後8月5日安値2,644.5円から9月3日高値3,711円へ上昇したものの、その後は下落傾向で、10月30日時点では3,200円台で推移しています。
ニトリホールディングス<9843>
家具・インテリア専門店を全国でチェーン展開しています。店舗数は国内が829店、海外が190店となっています(2024年6月末)。
自社企画のPB(プライベートブランド)商品が9割を占め、それらはアジア中心の自社および協力工場から調達しており、為替の円高進行でメリットが大きくなります。小売りの時価総額大手企業として、仮に買収が取り沙汰されるセブン&アイ・ホールディングス<3382>がM&Aで上場廃止となれば、ポートフォリオの同業種内でのリバランスが買い需要に繋がる可能性もありそうです。
株価は年初から3月上場来高値24,420円まで右肩上がりで推移していました。その後は、7月10日安値16,355円まで大きく調整していましたが、以降は再び上昇を開始。8月上旬の全体相場急落の局面でも、利上げメリット銘柄として底堅い動きとなり9月5日高値22,970円まで上昇しました。その後は円安ドル高が続いたことから下落傾向となり、10月30日時点では、19,000円台前半で推移しています。
積水ハウス<1928>
戸建住宅や賃貸住宅など住宅メーカーの最大手企業です。鉄骨系プレハブ住宅を中心として、中高級住宅路線で主に展開しています。都市再開発やリフォーム、海外なども注力しています。
一般に利上げは住宅ローン金利の上昇につながり、住宅需要にとってマイナス要因となりますが、未曽有の低金利からの脱却場面となるため、駆け込み的な特需が発生する可能性があると考えられます。
また、現在16%の海外売上高比率を2032年に45%まで高める方針で、米国の利下げは米国での住宅の購入需要にプラスとなり、成長が期待されます。
株価は年初から上昇が続き7月18日高値3,900円まで上昇していましたが、8月5日安値2,843円へ下落。そこから堅調に反発し、9月27日上場来高値4,134円まで上昇しました。その後は上昇一服となり、10月30日時点では3,700円前後で推移しています。
記事作成日:2024年10月31日